春の一瞬を、缶にとじこめる。竹林で生まれ、世界の食卓へ旅するタケノコの物語。

🎍プロローグ:春の香り、缶を開けたら

缶詰の たけのこ水煮 食卓に
缶詰の たけのこ水煮 食卓に

竹の根が眠る地中で、
春の気配を感じて生まれる小さな命。
それがタケノコ。
芽吹いてしまえば、わずか数日で竹になってしまう——
だから、人はその“つかの間”を逃さぬよう、
静かな森を歩き、そっと土をかきわける。
地上に出る前の、あの柔らかさ、あの香り。
消えてしまう前に、味わってほしい旬のかけらを、
缶に託して届けたい。

竹林の静けさ、地下に眠るつぼみ

地中から 旬のタケノコ 掘り出した
地中から 旬のタケノコ 掘り出した

タケノコとは、竹の地下茎から芽を出す新芽のこと。
品種によって異なるが、一般に缶詰に用いられるのは「孟宗竹(モウソウチク)」で、藤の花が咲く4月中旬から下旬が最盛期。
早朝、露の残る竹林に分け入り、鍬で傷つけないよう丁寧に掘り出す。掘り遅れれば「竹」になってしまう――その時間との勝負が、タケノコの旅の第一歩である。

えぐみとの闘い、時間との勝負

掘りたてを 皮付きのまま 蒸し煮する
掘りたてを 皮付きのまま 蒸し煮する

収穫後すぐに始まるのが「えぐみ」との闘い。
タケノコにはシュウ酸やホモゲンチジン酸といったえぐみ成分があり、時間が経つほど濃くなる。
そのため、収穫から数時間以内に下処理に入ることが理想だ。
農家の庭先で皮付きのまま大釜で茹でる姿を思い出す方もいるだろう。

缶詰工場では、到着後すぐに、皮付きのまま大釜または連続式の湯煮機で仮煮(予備加熱)を行う。

缶に込める、春の記憶

同期する タケノコの旬 藤の花
同期する タケノコの旬 藤の花

仮煮が終わったら、冷却し、皮をむき、根元を切り揃え、適正サイズにカットし、缶に詰めていく。
この時、使用するのは水(または希薄な食塩水)だけ。調味液を使わないのが特徴で、「タケノコ水煮」として分類される。
密封後、加圧加熱殺菌(レトルト)により、タケノコは長期保存可能な形に変わる。ここでの温度と時間の管理は、缶詰製造の腕の見せ所だ。

🌱 詳しくはこちら日本缶詰びん詰レトルト食品協会|缶詰、びん詰、レトルト食品の特徴

ボツリヌス菌に勝つために

鏡見て 衛生管理 万全に
鏡見て 衛生管理 万全に

低酸性食品であるタケノコ水煮は、ボツリヌス菌の温床にもなりやすいため、121℃・4気圧以上の高温高圧殺菌が不可欠。
温度が1℃違っても、安全性や食感に影響する。
製造記録、抜き取り検査、外観検査、インキュベーション検査など、品質保証体制も缶詰工場の要となる。

🛡 安全に食べるために東京都医療保健局|食中毒を起こす微生物「ボツリヌス菌」

ラベルは、竹林への案内図

竹林の 静かな感じ 詰まっている
竹林の 静かな感じ 詰まっている

製品が完成すると、ラベルが貼られ出荷される。
「孟宗竹水煮(ホール)」「スライス」「千切り」など用途に応じた形状で、ラーメン、チンジャオロース、煮物などに活躍する。
ラベルの裏には、どこか竹林の静けさを感じさせるような物語が詰まっている。

コラム:「タケノコ缶詰、世界に羽ばたく」

タケノコ缶詰は、実は日本国内だけでなく、アジアや欧米にも輸出されているグローバルな保存食品です。
特に中国料理が広く普及しているアメリカ、カナダ、ヨーロッパ諸国では、チンジャオロースや春巻き、炒め物に欠かせない具材としてタケノコの需要が高く、日本製の缶詰もその品質の高さで重宝されています。

かつては国内の竹林から採れたタケノコを使用していましたが、平成以降は中国南部やタイ、ベトナムなどの契約農場で収穫された原料を日本に輸入し、国内で缶詰加工をする「原料輸入→国内製造型」も一般化しています。
その背景には、国内の竹林放棄地の増加や人手不足、生産コストの上昇といった課題がある一方、日本の缶詰技術や品質管理力が、原料産地との国際的な連携を可能にしている現実もあります。

一方で、近年では「地産地消」や「国産竹林の再生」の観点から、国産タケノコの缶詰も見直されつつあります。
かつての高度経済成長期に、全国の缶詰工場がフル稼働して製造していた「タケノコ水煮」は、いまやグローバル市場を旅する“和製食文化の使者”とも言えるでしょう。

🎍エピローグ:缶の中にある季節

旬の春 大皿で食べる 若竹煮
旬の春 大皿で食べる 若竹煮

竹林の静けさを、ひとさじの水煮に思い出す。
口に広がるのは、やさしく、土のようにぬくもりある味。
あの春、あの里山、あの一瞬——
すべては火と手間によって封じ込められた。
缶のなかのタケノコは、
季節の向こう側からやってくる。
それは、森の時間が届けてくれる、
もうひとつのごちそう。

🍴 レシピ活用はこちらクックパッド|タケノコ水煮レシピ

ミニ知識:タケノコ水煮缶の保存のコツ

Q. タケノコの水煮缶、一度で使い切れなかったら?

缶を開けた後のタケノコは要冷蔵で保存しましょう。ポイントは以下の通りです:

◎ 開缶後の保存方法

  • 缶のまま保存しない!
    金属の変質や異臭の原因になるので、必ず密閉容器やガラス瓶に移して保存しましょう。
  • 水をひたひたに張ることで、乾燥と雑菌の繁殖を防げます。
  • 保存期間:冷蔵で2〜3日以内を目安に。毎日水を替えるとより安心。

◎ 冷凍保存はできる?

  • 冷凍はおすすめしません。
    解凍後に繊維が壊れて食感が悪くなるため、用途が限られます。
    どうしても冷凍したい場合は、細かく刻んで調理済みにしてから冷凍を。

◎ 賞味期限前の未開封缶は?

  • 高温多湿を避けた**常温の暗所(食品棚や戸棚など)**でOK。
  • 開缶前なら賞味期限+1〜2年と長持ち。ただし缶が膨らんでいる・錆びている・液漏れしているなどの場合は、迷わず廃棄を。

🌱 ひとことメモ
タケノコは香りが命。使い切れない分は「若竹煮」や「たけのこご飯」などにして、一気に味わうのも一つの手です。