巨峰と甲州ぶどう 山梨の棚田やぶどう棚に残る、巨峰の紫の房が秋空を彩る。

秋の果実 #1|甲州ぶどうと巨峰の晩生種

甲州と巨峰晩生が、山梨の秋空を彩る

 甲州と巨峰晩生。秋の山梨を歩くと、目に映るのは黄金色の棚田と、その向こうに連なる丘陵地に広がる紫の房の群れです。そして風に揺れるぶどうの枝は、秋の空気に溶け込み、空の青と稲穂の黄金を背景に、淡い紫が静かに輝いています。また昼の陽光が果実に当たり、夕暮れの斜光が枝を染める。するとそんな瞬間、ぶどう畑はまるでひとつの絵画の中に迷い込んだかのように思えます。

甲州ぶどうは、ワイン造りの礎

甲州ブドウの房がぶら下がっている、棚仕立てのブドウ畑。紙の袋を被せて保護している。
ぶどう棚 白紙ぶくろ 秋びより

 古くから山梨県で育てられてきた甲州ぶどうは、淡紅色を帯びた小粒の果実。そして口に含むと、ほのかな酸味が秋風のように喉をかすめ、香りは軽やかに広がります。またその歴史は深く、江戸時代には「甲州葡萄酒」として知られ、明治以降は本格的なワイン造りの礎となりました。そして棚田や斜面で育つ甲州ぶどうの一房には、土地の風土と人の手の記憶が重なり、ひとつひとつが時間の凝縮です。

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日照量の多い山梨の気候風土が、雨に弱い甲州ぶどうの生育に適してそうです。

巨峰の晩生種は、秋の余韻を口中に広げる

巨峰の晩生種、ぶどう棚に残る紫は、秋の深まりを告げる色。
山裾に むらさきの影や 秋の房

 巨峰の晩生種は、秋が深まるほどに甘みを増し、濃い紫色に輝きます。そして粒のひとつひとつからあふれる果汁は、まるで秋の光を閉じ込めたかのよう。また頬張れば、深く濃厚な甘みと、ほんのり残る渋みが絡み合い、夏の名残を抱えた秋の余韻を口中に広げます。

味わいの源は、山梨の風土そのもの

 この美しさと味わいの源は、山梨県の風土そのものです。つまり甲府盆地の昼夜の寒暖差は、ぶどうの糖度を高め、酸味を引き締め、果皮には深い色を宿らせます。風の通る斜面、水はけのよい畑、陽光を受ける角度──すべてがぶどうの姿を形作る要素です。農家は春から枝を整え、夏には一房ごとに紙の傘をかけ、病気や雨から守ります。紫の房に宿る光沢は、土地と時間、人の手の証です。

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昼夜の温度格差が大きい内陸性の気候が、美味しいブドウづくりには欠かせないそうです。

甲州と巨峰晩生、収穫期の畑にて

 収穫期のぶどう畑には、静かで温かな音があります。枝をかき分ける指先の感触、葉と葉がこすれる音、果実を包む紙を開く時の柔らかな紙音。そうした微細な感覚が、秋の匂いとともに胸に染み入ります。ひと房を手に取れば、冷たい風と陽光の余韻、土の香りとぶどうの甘い香りが交差します。そして土地の時間をまるごと味わうような気持ちになるのです。

◆コラム|甲府盆地の空と山梨ワイン

昼夜の寒暖差が生む甘さ

甲府盆地は、夏には厳しい暑さに覆われながら、夜は気温がぐっと下がります。つまりこの大きな寒暖差こそが、ぶどうに濃い甘さと美しい色を与える秘密です。また秋になると朝霧が棚田や畑を包み、その湿り気が果実にやさしい潤いを与えてくれます。

甲州ぶどうとワインの歴史

山梨は、日本ワイン発祥の地と呼ばれています。甲州ぶどうは、江戸の頃から名産品として知られ、明治時代には本格的なワイン造りが始まりました。現在も勝沼や塩山のワイナリーでは、甲州を中心に多彩なワインが生み出されます。そして秋の収穫期には訪れる人々でにぎわいます。

秋の棚田とぶどう棚の景色

稲刈りを終えた棚田の斜面に広がるぶどう棚。黄金の稲株と紫の果実が交じり合う風景は、甲府盆地ならではの秋の絵巻です。山に囲まれた盆地だからこそ、光と影がくっきりと浮かび、ぶどうの房はひときわ輝きを増すのです。

甲州と巨峰晩生は、山梨の風景そのもの

葡萄色や 棚田に垂れて 秋の房
紫の房が秋空を彩る

葡萄色や 棚田に垂れて 秋の房

 この一句が示す通り、ぶどうの房は単なる果実ではなく、風景そのもの。そして稲穂の黄金、山の緑、秋空の青をつなぐ光のかけらであり、土地に暮らす人々の営みを映す存在でもあります。

甲州と巨峰晩生は、山梨の秋からの贈り物

 甲州ぶどうの軽やかな酸味と、巨峰晩生種の深い甘み。そして二つの味わいが同じ土地に共存することで、山梨の秋はより豊かに、より深く心に刻まれます。手に取るひと房のぶどうは、秋の色、香り、光をそのまま閉じ込めた小さな便り土地の息遣いを伝える、秋の贈り物なのです。

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