菜種の油をしぼる技術
春の畑で収穫された小さな菜種は、町の工房で油へと姿を変える。例えば砕き、蒸し、圧力をかけてしぼるという工程の中には、職人の経験と長い年月で磨かれた技術が息づいている。そして菜種油がどのように生まれるのかをたどりながら、農業と加工を結ぶ「しぼる技術」の世界をのぞいてみよう。 🌼⚙️
菜種から油を取り出す
こうして油脂を含む植物の種子や果実から油を取り出す技術は、古代から人類が利用してきた基本的な加工技術の一つである。例えばゴマ、菜種、大豆、オリーブなどの油料作物は、内部に油脂を蓄えており、その油を取り出すことで食用油や化粧品原料、工業用材料として利用することができる。
そして油を取り出す方法には大きく分けて二つの系統がある。
- 圧搾(あっさく)法
- 溶剤抽出法
本章では、伝統的かつ現在でも広く利用されている 圧搾による油の抽出技術 を中心に解説する。圧搾法は、機械的な力によって原料から油を押し出す方法であり、設備が比較的シンプルで、品質の良い油を得やすいという特徴がある。🛠️
圧搾法の基本原理
菜種など油料種子の内部では、油は細胞の中に微細な油滴として存在している。つまりこれらの細胞を破壊し、強い圧力をかけることで、油を外部に押し出すことができる。
圧搾の基本工程は次の通りである。
- 原料の前処理
- 細胞破壊
- 加圧による油の分離
- 油と搾りかすの分離
例えば圧力をかけると、液体である油は固体よりも流れやすいため、原料の隙間を通って外へと押し出される。そしてこのとき、適切な温度と圧力を保つことが油の収率と品質に大きく影響する。⚙️
🌻圧搾法の違いを知ってる?
ごま油やなたね油で圧搾方法の違いを解説しています。
原料の前処理

例えば効率よく油をしぼるためには、原料の状態を整えることが重要である。つまり前処理の良し悪しは、油の収量や品質に直接影響する。
主な前処理には以下がある。
菜種の洗浄
原料に付着した土や異物を取り除く工程である。異物が残ると、機械の摩耗や油の品質低下の原因となる。
菜種の乾燥
例えば水分が多すぎると油の分離効率が低下するため、適切な水分量まで乾燥させる必要がある。つまり一般的に油料種子の水分は 6〜10%程度 が望ましいとされる。
菜種の破砕
種子を砕いて表面積を増やすことで、細胞の破壊を促進し、油の流出を容易にする。
菜種の焙煎(ばいせん)
原料を軽く加熱する工程で、以下の効果がある。
- 細胞組織が柔らかくなる
- 油の粘度が下がる
- 香りが良くなる
特にゴマ油などでは焙煎の程度が風味に大きく影響する。🔥
圧搾機の種類
油を搾る機械にはいくつかの種類があるが、代表的なものとして次の三つが挙げられる。
てこ式圧搾機
最も古いタイプの圧搾装置で、てこの原理を利用して圧力をかける。構造は単純だが、大量生産には向かない。
特徴
- 小規模生産向け
- 手作業中心
- 圧力は比較的低い
油圧プレス
油圧シリンダーによって高い圧力をかける装置である。
特徴
- 高い圧力をかけられる
- 品質の良い油が得られる
- バッチ処理が基本
搾油量は比較的多いが、連続生産にはやや不向きである。
スクリュープレス(エクスペラー)
現在もっとも広く使われている搾油機である。内部のスクリュー(らせん軸)が回転しながら原料を前方へ押し出し、徐々に圧力を高めて油を搾り出す仕組みになっている。
特徴
- 連続処理が可能
- 大量生産に適している
- 自動化しやすい
この方式では、原料が前に進むにつれて圧縮され、スリットから油が流れ出る。残った固形物は 搾りかす(油かす) として排出される。🔩
コールドプレスとホットプレス
圧搾法は温度条件によって次の二つに分類される。
コールドプレス(低温圧搾)
原料をほとんど加熱せずに搾油する方法である。
特徴
- 香りや栄養成分が残りやすい
- 酸化が少ない
- 収油率はやや低い
高品質な食用油や化粧品原料に用いられることが多い。🌱
ホットプレス(加熱圧搾)
原料を加熱してから圧搾する方法である。
特徴
- 油の粘度が下がる
- 収油率が高い
- 大量生産に向く
ただし、加熱しすぎると風味や栄養成分が損なわれる可能性があるため、温度管理が重要である。
菜種の搾油後処理
搾った油はそのままでは微細な固形物や水分を含んでいるため、次のような工程で精製される。
- ろ過
- 沈殿分離
- 必要に応じた精製
簡易的な製造では、布やフィルターを用いたろ過だけでも十分な品質の油を得ることができる。
また、搾油後に残る 搾りかす は、以下の用途で利用される。
- 家畜飼料
- 有機肥料
- 食品原料
このように、油をしぼる工程では原料のほとんどを無駄なく活用することが可能である。♻️
透明な一滴になるまで
圧搾によって搾り出されたばかりの菜種油は、すぐに商品になるわけではない。
しぼりたての油には細かな種のかけらや不純物が混ざり、色もやや濁っている。そこで必要になるのが、油を整える「精製」の工程である。
まず行われるのは、沈殿とろ過である。
搾った油をしばらく静かに置くと、重い粒子がゆっくりと底に沈む。上澄みをすくい取り、布や紙のようなろ材でこすことで、油は少しずつ澄んでいく。時間をかけて落ち着かせることで、透明度の高い油が生まれる。
江戸時代の工房でも、このような自然な沈殿とろ過が行われていた。
大きな桶や壺に油を入れて静置し、澄んだ部分だけを取り出す。単純な方法だが、温度や時間の見極めが必要で、ここにも職人の経験が生きていた。
時代が進むと、菜種油の精製には新しい技術が加わっていく。
加熱によって成分を安定させたり、より細かなろ過装置を使ったりすることで、油の色や香りが整えられるようになった。こうした工程によって、保存性や品質も高まっていく。
こうして精製された菜種油は、澄んだ黄金色を帯びる。
光にかざすと、ゆっくりとした粘りを持つ透明な液体が静かに揺れる。つまりその一滴は、畑で生まれた小さな種から始まり、圧搾と精製の技術を経て生まれたものだ。
油は単なる農産物ではない。
そこには、作物を加工し、品質を整え、商品へ仕上げる人の知恵が重なっている。つまり精製の工程は、畑の作物が産業の一部へと変わる大切な仕上げの仕事なのである。 🌼🫙
技術発展と今後の可能性
近年では、小型で高効率な搾油機や、低温で品質を保つ圧搾技術が開発されている。これにより、地域の小規模事業者や農家でも独自の油を生産することが可能になりつつある。
また、持続可能な社会の観点からも、地域で生産された油料作物を地域で加工する 地産地消型の油づくり が注目されている。🌍
油をしぼる技術は、古くから存在する一方で、現在も改良が続けられている分野である。原料、設備、温度管理などを適切に組み合わせることで、品質と効率を両立した搾油が実現できるのである。
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